空手は稽古によって心身を鍛え、技を磨いていくことで生涯に渡って自身を
高めていくことのできる武道です。
道場によってその指導方針や目指すところに違いはありますが、
それぞれの先生方が、道場生を成長させたいという想いを持って
日々真剣に指導に取り組まれています。

天志道場は、「人を育てる空手道場」を理念としています。
何事も長続きしなかった自分が空手を続けられたのは、
その当時に所属していた道場の先生の教えや素敵な先輩や仲間たち、
厳しくも楽しい道場の雰囲気があったからこそであり、
その空手のおかげで病弱で精神的にも弱かった自分が大きく変わることができたのです。
そして自身が天志道場を創設する時も、そのような道場にしたいという想いがありました。
それから27年目を迎える現在、今通っている門下生が稽古を通じて心技体を高め、
社会に役立つ”人財”へと育成することが私自身を変えてもらった
空手道への恩返しだと思っています。

私が空手を始めた当時は、子どもが空手を学べる道場は少なかったのですが、
現在では空手も数多くの流派が存在し、子どもが通える道場も多くの場所で見られます。
今は子どもの空手人口も非常に多く、当道場でもたくさんの子どもたちが稽古に通っています。

空手は護身や精神鍛錬としての武道の面と、競技としての面があります。
私が空手を始めたころは、年に一回の全日本大会と、
春・秋の新人戦があるくらいで子どもの空手の試合などはありませんでした。
天志道場を創設してからは、少しずつ小年部の試合も行われるようになり、
昨今は、毎週のようにジュニアの大会が行われています。
その中で門下生を様々な大会に送り出してきましたが、
それまでの経緯を踏まえて競技試合への
当道場の考え方についてお話をさせていただきます。

試合はあくまでも空手修業の一環であり、
日々の稽古の成果を相手選手と”試し合う”ことで
今の自分の心技体の状態を知ることが最も大事であり、
結果はそこに付随するものであると考えています。

そして、ジュニアのうちは、あまり勝ち負けの結果や
タイトルを取ることに捉われることなく、
伸び伸びと闘い、試合を楽しむことで、子どもたちが健全に成長し、
空手をもっと好きになるように育ってくれることが、
これまでの指導経験においても実感している次第です。

私は心身の発達途上にあるジュニアの時期は、
目先の勝利を追うよりも、空手自体を楽しむことが大事であると思います。
もちろん試合に勝つための指導はしますが、勝利至上主義に陥ることは、
子どもたちの健全な心身の成長にとってはプラスになりません。

まず健康面の問題としては、勝つためにとにかくハードな練習や
過度なトレーニングの繰り返しで未発達の子どもの身体に大きな負荷をかけ過ぎたり、
短期間に何度も試合に出たりすると、ケガや故障のリスクが大きくなります。
また、その障害が大人になっても残る可能性や身長が伸びなくなるケースもあります。

次に精神面の問題です。
「勝たなければいけない、勝たなければ意味がない」という意識は、
精神的に未成熟な子どもたちにとって、大きなストレスとなり、
それが重しとなって、稽古を楽しめなくなったり、
空手そのものが嫌いになってしまうことがあります。
私自身も若いころにそうした精神的ストレスから、
一時空手から離れていた時期がありました。

そうした自身の経験から当道場では、ジュニアの時期の試合は勝利が本質ではなく、
勝利を目指す過程での努力や、勝ち負けを通じて得られる様々な感情、
自主性や工夫を学ぶこと、相手選手・試合に携わる方々への敬意や
空手仲間の輪の広がり、そうした数多くの経験によって
人間的な成長をしていくことが本質であると考えています。

そのジュニア時代の経験によって得られたものが子どもたちの健全な発達を促し、
年齢が進むにつれて大きく花開き、結果的に競技者としての
ハイパフォーマンスにもつながるのです。

以前、ロシアで行われたヨーロッパ選手権に行った時、
海外のジュニア選手たちの技術レベルはそれほど高くなく、
日本人選手たちがほとんど上位を占めていました。
しかし、大人のクラスではそれが見事に逆転していたのを目の当たりにしました。
その時に印象に残ったのは、ジュニアの選手たちに対しての指導者の接し方です。
試合前のウォーミングアップも楽しげに行い、試合前には勇気づけたり励ましたり。
そして試合後は勝っても負けても、選手たちを抱きしめて「よくやった!!」と褒めてあげる。
そんな彼らの姿からもジュニア指導の在り方を学ばせてもらいました。

全ての子が将来もずっと空手を続けるわけではありません。
だからこそ、私たちは稽古を通じて丈夫で健康な身体、強く優しい心、
主体性や自立・自律心など、子どもたちがこれからの人生において役立つことのできる
普遍的なものを身につけさせてあげることが指導者としての使命であると思っています。
稽古や試合で見えた小さな成長を見逃すことなく、努力の成果を褒めてあげる、
それが子どもたちにとっての喜びとなり、稽古へのモチベーションも高まります。
やる気や元気が高まれば、どうすればもっと上手くなれるかを自らの意志で考え、
行動する自主性・主体性が育まれ、それが後の人生にも役立つものとなっていきます。

そうした想いから、指導において最も大切なのは、
未来を見据えて子どもたちが稽古を楽しみ、空手をもっと好きになってもらうこと。
試合においても、順位や勝ち負けに一喜一憂せず、周りの選手たちと比較して
あれこれ言うのではなく、その子の成長を見守り、励まし、応援してあげること。
それらを念頭に私たちは日々の指導に臨んでます。